今回は『ゴールデンカムイ』を読む前は『キングダム』との区別もついていなかったにも関わらず、気がつけば『ゴールデンカムイ』にどハマりしていた私が、その魅力を紹介したいと思います。
たとえ『ゴールデンカムイ』を読んだことがなくても、タイトルだけは知っていることでしょう。
中には「アイヌが登場する漫画だよね?」「ラッコ鍋ネタのやつ?」と、内容を少しご存じの方や、「全話無料期間に途中まで読んだけど、リタイアしてしまった」なんて方もいらっしゃるかもしれませんね。
2022年7月19日発売の単行本31巻で完結している『ゴールデンカムイ』ですが、まだまだ話題に事欠きません。
単行本第29巻(2022年4月19日発売)の帯では、実写映画化が告知されました。
その後、追加情報はありませんが『ゴールデンカムイ』の魅力溢れるキャラクターたちを誰が演じるのか、ず~っと気になり続けている人も多いはず。
そして、2023年6月26日にはアニメ版『ゴールデンカムイ』最終章(5期)の制作決定が公表されました。
放送は2024年冬くらいでしょうか。気になり続けるネタが増えました。
『ゴールデンカムイ』は金塊を巡る大冒険の話!
まずは、簡単なあらすじをご紹介。
明治時代後期、日露戦争で大活躍し『不死身の杉元』と呼ばれた元兵士の杉元佐一は、一攫千金を目指して北海道にやって来ました。その理由は、幼馴染である梅子の治療費を稼ぐため。
当時の北海道はゴールドラッシュの真っ只中で、金を求める者が全国から押し寄せてきていたのです。
そんな中、杉元は網走監獄に幽閉されたアイヌの死刑囚が隠したという金塊の存在を耳にします。折しもそのアイヌの死刑囚に父親を殺されたというアイヌの少女、アシリパ※と出会い、2人は金塊探しの旅に出ることを決意します。
しかし、金塊を狙う者は2人だけではなく、「ヤバい変態」ばかりの網走監獄囚や、さらには大日本帝国軍最強の師団である、第七師団との闘争に巻き込まれていくのでした。
(※アシリパの名前について、正しいアイヌ語表記では「リ」が小文字になります。以下「アシリパ」と表記。)
……と、あらすじを述べるとこのようになってしまうのですが、正直なところ、このあらすじだけだと魅力を全て伝えきれていません。
北海道にゆかりのある方や日本史好きな方ならまだしも、「明治時代?」「アイヌ?」といった聞き慣れない言葉に躊躇してしまう方もいらっしゃると思います。
でも大丈夫です!
そんな方にこそ、ぜひ『ゴールデンカムイ』をオススメしたいのです。
人物描写が “細かすぎる” 『ゴールデンカムイ』
『ゴールデンカムイ』の特長として、
- 「北海道を股にかける大冒険」
- 「丹念に調べ上げられたアイヌ文化」
- 「びっくりするほど壮大な話の展開」
がよく挙げられます。
北海道の端から端まで旅をする一行を見ていると、人気ゲーム『ゼルダの伝説 ブレスオブザワイルド』で新たな道を開拓していくときのような高揚感がありますし、金塊の真実が少しずつ明らかになるにつれて増していくドキドキ感は、例えば『進撃の巨人』が好きな方ならハマるはずです。
以上の要素は確かに『ゴールデンカムイ』の大切な魅力なのですが、この作品の魅力を語るために外してはいけない要素がもう1つあると私は感じています。それは、
「人物描写が細かすぎる!!」
ということです。
主要キャラはもちろん、数話で死んでしまう敵キャラに至るまで、しっかりとキャラ設定が作り込まれていて、「なぜそのような性格になったのか」の説得力がすごいのです。まるで本当にキャラクターが生きていて自分で考えているような発言をしたり、行動を取ったりします。その姿に心を打たれ、共感することもあります。
そのため、「推し活がしたい!」「漫画はキャラクターから入る」という方には、ぜひ『ゴールデンカムイ』をオススメしたいです。
ここからは、そんな魅力的なキャラクターたちの中から何人か抜粋してご紹介します。
(キャラクターたちの過去など、物語の中盤までに明らかになる内容も含みますので、「何も知らない状態から読み始めたい!」という方はご注意ください。)
約束を貫く不死身の男・杉元佐一
杉元佐一は『ゴールデンカムイ』の主人公で、連載4周年記念の際に実施された人気投票では堂々たる1位に輝きました。
礼儀正しく遊び心も持ち併せた性格で、誰に対しても穏やかで非常に優しいのですが、相手が敵となった際には一瞬で表情を変え容赦なく殺します。その入れ替わりは、一番そばにいるアシリパでさえゾッとするほどです。
日露戦争では大活躍を見せ、軍内では『不死身の杉元』という異名が知れ渡りました。その名の由来は、鬼神のような戦いぶりと、軍医が見放すような重傷を負っても翌日には戦場を駆け回るという脅威の回復力でした。杉元自身も窮地に追いやられるたびに、「俺は不死身の杉元だ!」と自らを鼓舞します。しかし、そんな口癖の裏には悲しい過去があったのです。
元々神奈川の農村の生まれであった杉元は、結核で家族を全員失ってしまいました。村には両思いの仲だった梅子がいましたが、村に感染を拡大させないために、自らの家を焼き、村を出ます。「俺は不死身だ」というのは、結核発症の恐怖に打ち勝とうと自らに言い聞かせていた言葉だったのです。
数年後、杉元は故郷を訪ねますが、梅子は杉元と共通の幼馴染である寅次と結婚していました。杉元は故郷を後にします。
杉元と虎次が再び言葉を交わしたのは、日露戦争の戦場で同じ師団に配属されたときでした。梅子と両思いの関係にあった杉元に複雑な感情を抱いていたにも関わらず、杉元を庇って戦死した寅次に恩を返すために、杉元は梅子の病気の治療費を集めることを決意します。
生き延びるために必死に奔走してきた杉元でしたが、結果として家を失い、故郷を失い、想いを遂げられず、友人を失ってしまいました。その上、寅次の遺骨を梅子の元に持っていった際、戦争を経験して雰囲気が様変わりしてしまったために、目の病が進行していた梅子に自分のことをわかってもらえませんでした。戦争に行く前の自分さえも失ってしまったのです。
「日本に帰ってきても 元の自分に戻れない奴は 心がずっと戦場にいる」
と杉元は言います。
果たして杉元は、本来の自分を取り戻し、心の拠り所を見つけることができるのでしょうか。
証明のために生きる孤高のスナイパー・尾形百之助
尾形百之助は、陸軍最強と謳われた第七師団に所属する上等兵です。連載4周年記念の際に実施された人気投票では2位にランクインしました。
極めて優れた狙撃手で、300メートル以内であれば確実に頭部を撃ち抜くことが可能です。感情をあまり顔に出さず、飄々とした性格で、状況に応じて杉元一行を味方したり、急に裏切ったりするので、何を考えているのか読み取りにくい人物です。
尾形が狙撃手として優れているのには、彼の幼少期が関わっています。尾形自身の階級は上等兵で、現代で言うバイトリーダーのような役職なのですが、実は彼は元第七師団長である花沢幸次郎中将と妾の間に生まれた子だったのです。第七師団長は師団を束ねるエリートで、軍功をあげるだけでなく出自も良くなければ到底なることのできない役職です。母親は浅草の芸者で、花沢と本妻の間に男子が生まれたときに捨てられてしまい、尾形は母親と共に祖父母の家に身を寄せることになりました。もちろん花沢が尾形と母親を訪ねに来ることはなく、それでも母親は花沢とも思い出の味であるあんこう鍋を狂ったように作り続けました。尾形はあんこう鍋以外のものを母親に作ってもらうために、祖父が持っていた銃で鳥を撃つようになります。
次第に尾形は「母親が死ねば花沢が母の元を訪ね、花沢に会いたいという母親の願いが叶うのではないか」と考えるようになり、あんこう鍋に殺鼠剤を混ぜて母親を殺害します。
その後軍に志願した尾形は、偶然にも母違いの弟・花沢勇作と同じ第七師団に配属されます。尾形のことを「兄様」と慕いながらエリート街道を歩む勇作を目の当たりにして、尾形は複雑な感情を抱くようになります。
「愛情のない親が交わって出来る子供は 何かが欠けた人間に育つのですかね?」
「祝福された道が俺にもあったのか…」
という尾形の台詞があります。そして、自分が母親や敵を殺しても罪悪感を感じないのは、自分が「欠けた人間」だからなのかと思うようになります。
自分自身の人生を証明するために生きる尾形。作中でも重要なキーパーソンとなるため目が離せません。
使命を全うする軍曹・月島基
月島基は第七師団に所属する軍曹で、連載4周年記念の際に実施された人気投票では3位にランクインしました。
冷静沈着で、第七師団を束ねる鶴見中尉の忠実な部下として、どんな仕事もやってのける軍人です。
月島は少年時代は荒くれ者で、月島の父親が村の嫌われ者だったこともあり、月島自身も好かれる存在ではありませんでした。そんな中1人だけ月島に優しくしてくれた少女と月島は両思いの仲になります。そして、自分が日清戦争から帰ってきたら駆け落ちしようと約束して、戦地に赴いたのでした。
しかし、いざ帰ってきてみると、村では月島が戦死したという噂が流れていました。その上、月島の訃報に絶望した少女が海に身を投げたというのです。少女の遺体を見つけることはできませんでしたが、「月島が死んだ」という噂を流したのが父親であることを知ります。幼少期から積もり積もった恨みがとうとう爆発した月島は、父親を殴り殺し、尊属殺人の罪で死刑囚となってしまいました。
そこで月島の元を訪ねたのが、のちに月島の上司となる鶴見中尉でした。鶴見中尉の話によると、月島と両思いだった少女は生きていて、東京に嫁に行ったというのです。はじめ少女は月島を待つべく縁談を断ろうとしたため、少女の両親が月島の父親に金を渡して、「月島が死んだ」という噂を流させたということでした。拍子抜けした月島に対し、鶴見中尉はロシア語を勉強するように命じ、貴重な通訳として採用することで月島を死刑から救いました。
事件が起きたのはそれから数年後、日露戦争の戦場でした。月島と同郷の生まれだと語る男が月島に話しかけてきて、「少女の骨が月島の父親の家から発見された」と言うのです。鶴見中尉に騙されたと思った月島が鶴見中尉に殴りかかると、鶴見中尉は「どうしても月島の死刑を取りやめにして月島を仲間に加えるために、情状酌量の理由が欲しかった。そのため、『恋人が父親に殺された』という偽装工作を行った」と月島に語りました。
月島は、どの話が真実なのか、少女は本当に生きているのか分からなくなってしまいました。そして、死刑からの救出劇から、同郷の男とたまたま会話したことまで、全て鶴見中尉が自分を愛する忠実な部下を作るために仕組んだ茶番であったことに気づきます。
鶴見中尉が自分を試したり騙したりしたことは確かだが、命の恩人であることも事実なので、自分自身の人生は何もかも全て諦めて、鶴見中尉に人生を捧げよう、と月島は決意したのでした。
「本当に大切だったものを諦めて…捨ててきました」
「私は鶴見劇場をかぶりつきで見たいんですよ 最後まで」
と月島は言います。
月島の鶴見中尉に対する信頼の裏には、複雑な思いがあったのですね。物語が進むにつれ、この思いがどのように変化していくのか必見です。
「人物描写が細かすぎる」点が魅力的な『ゴールデンカムイ』。
推し活をしたいけどいい出会いが無い……という方は、ぜひ一度読んでみてはいかがでしょうか。
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