ジブリ映画をもっと見たい方へ『シュナの旅』※ネタバレ注意

※本記事は後半より『シュナの旅』のネタバレを含みます(該当箇所に注意書きを入れています)。ネタバレが苦手な方はご注意ください。

今年の7月14日にスタジオジブリの最新映画『君たちはどう生きるか』が公開されました。

「宣伝を一切行わない」「公開前に一切情報を公開しない」という独特な宣伝手法に興味を惹かれ、観に行った方も多いのではないでしょうか。

私も上映開始後早速観てきた人の1人なのですが、鑑賞後にふと思ったのは、「あと何本宮﨑駿監督の最新作が見られるんだろう」ということでした。

宮﨑監督は元々前作の『風立ちぬ』で引退を宣言していらっしゃったので、『君たちはどう生きるか』が観られたのは私にとってはラッキーなことでした。

しかし、夢が1つ叶うとまた1つ欲が湧いてくるもので、映画館を出る頃には宮﨑監督の次の作品を見られるかどうかを考えてしまっていたのです。

そんなときに、思い出して手に取ったのが『シュナの旅』でした。

『シュナの旅』の舞台は、『風の谷のナウシカ』を彷彿とさせるような谷底にある土地の痩せた村です。主人公は『もののけ姫』に登場するヤックルに跨っています。

つまり何が言いたいのかというと、『シュナの旅』は、多くのジブリファンが愛する『風の谷のナウシカ』や『もののけ姫』などの世界観を共有しながらも、映画化されていない完全オリジナルストーリーなのです。

  • 『君たちはどう生きるか』を観た
  • 『風の谷のナウシカ』『もののけ姫』『天空の城ラピュタ』など、ジブリの往年の名作が好きな方
  • ジブリの次の新作が観たい方

今回は、以上のような方々にオススメしたい『シュナの旅』という漫画をご紹介していきたいと思います。

目次

作品について

『シュナの旅』は宮﨑駿さんが42歳のときに手がけた作品で、1983年6月に徳間書店アニメージュ文庫より出版されました。

実際に書籍を手に取っていただければお分かりになるかと思いますが、文庫本サイズの小さな本で中身はオールカラーで、本棚に飾って置きたくなるような装丁です。

前述の通り『風の谷のナウシカ』や『もののけ姫』と似た雰囲気を感じさせる本作品ですが、『シュナの旅』出版時は漫画版『風の谷のナウシカ』の連載中であり、『シュナの旅』発売の翌年である1984年に映画『風の谷のナウシカ』が公開されたことを考えると納得がいきます。

また2022年には、ジブリが制作に携わった映画『レッドタートル ある島の物語』の監督を務めたマイケル・ドゥドク・ドゥ・ヴィットさんの息子であるアレックス・ドゥドク・ドゥ・ヴィットさんが翻訳を担当し、『Shuna’s Journey』という名前で北米で出版されました。こちらは日本版とは少し想定が異なり、サイズも日本版と比べてやや大きめだそうで非常に気になるところです。

また『シュナの旅』のあとがきによると、宮﨑駿さんがチベットの民話である『犬になった王子』というお話を知った時に感銘を受け、『犬になった王子』の映画化を望んだそうなのですが「企画が地味すぎる」ということで叶わず、代わりに絵とナレーションで構成された紙芝居のような漫画として制作できることになったのだそうです。

『シュナの旅』は大麦を探す物語

主人公のシュナは、深い谷底のある小さな国の王子で、栄養の少ないヒワビエしか育たない貧しい母国を憂いていました。そんなある日、シュナの国で倒れた旅人から、死ぬ間際に大麦の存在を教えられます。大麦の実を見たシュナは、自国に生える穀物よりも大きく重たいそれに驚きます。

「この実は殻をむかれてすでに死んでいる 生きている種は金色の殻に包まれ美しく輝いていると聞いた……」と旅人は言い残し亡くなりました。シュナは国のために、生きている種を探す旅に出ます。

※以下、物語の重要な部分のネタバレを含みますので、ネタバレが苦手な方はご注意ください。

初めて『シュナの旅』を読んだとき、私はこの「生きている種/死んでいる種」という表現を面白く感じました。

そして私たちがスーパーで購入する穀物は、殻を剥かれてこれ以上繁栄することのない「死んだ種」なのだと気付かされました。

シュナは西へ歩を進める途中で、たくさんの麦が積まれ売買されている国に辿り着きます。しかしその国の誰に聞いても、生きた種の場所を知らないのです。

商人はシュナに「畑などやる者はもういないよ 麦なら必要なだけ 他所から手に入るようになってるからな」「人買いどもが 人と交換に持ってくる (麦が作られている場所は)人買いに聞くんだな」と言います。人買いは弱い立場の人たちを奴隷商人から買取り、どこかへ連れて行っているのでした。

シュナはさらに旅を続け、ついに人買いが麦を手に入れる場所を突き止めます。

その国よりさらに西方の、人の世界から断絶された土地で、大量の人間の命と引き換えに神の手によって麦が作られていたのです。

シュナは麦の穂を引きちぎり、命からがら神の土地から脱出します。

私はこのシーンを見たとき、まず「なんてグロテスクなシーンなんだろう」と思いました。

そして同時に、私たち人類もシュナの世界の人々が住む世界に突き進んでいるのではないだろうかと思い当たりました。

「麦を人間の手に取り戻す」シュナ

かつて人間は自らが食べる分だけを狩り、あるいは育て、慎ましやかな暮らしを送っていました。

やがて文明が発達し、農業が「人類の生業」から「職業の1つ」となり、食物は都市部の人にとって「お金で買うもの」になりました。スーパーで「生きている種」を目にすることはありません。そんな私たちの食卓を支えてくださっている農業界では、現在若者の農業離れが叫ばれています。

ひょっとすると、私たちが次に行き着く場所がシュナたちのいる世界なのかもしれません。

ついには耕作を放棄し、自分よりも弱い人間を生贄に「死んでいる」穀物を手にいれる世界です。

『シュナの旅』の作中で、なぜ人類が麦を手放し、神に耕作を委ねるようになったのかは描かれていません。敢えて描かれていないということが、読み手である私たちに、自分たちの世界を元に想像を膨らませようとしているのではないかという気がしてきます。(あくまで個人的な感想ですが……)

また、『シュナの旅』の元となったチベットの民話『犬になった王子』は、チベットで現在も主食とされている大麦がチベットに渡るまでをテーマにしたお話です。

そして『シュナの旅』は「いつのころか もはや定かではない はるかな昔か あるいはずっと 未来のことだったのか」という文章で始まります。

このことから、チベットが大麦を手に入れた「過去」の出来事の舞台を、麦を失った架空の「未来」の世界に移し、描き直したのがこの『シュナの旅』ではないかと私は解釈しています。

民話として語り継がれる勇敢で面白い冒険譚としての楽しみと、宮﨑さんの「耕作が全ての人間と共にあった時代」への憧憬や現代社会への批判が見事に混ざり合い、オリジナリティ溢れる素晴らしい作品になったのだと思います。

『シュナの旅』オススメです!

今回は、宮﨑駿さん作・画『シュナの旅』をご紹介しました。

『風の谷のナウシカ』『もののけ姫』『天空の城ラピュタ』など、ジブリの往年の名作が好きな方、スタジオジブリの新作映画『君たちはどう生きるか』を観てさらにジブリ映画の新作が見たくなった人には特にオススメできる一冊ではないかと思います。

興味を持ってくださった方がいらっしゃったら、ぜひお手にとってみてくださいね!

ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

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