皆さんは、先日7月14日に公開された宮﨑駿監督の10年ぶりの長編アニメーション作品『君たちはどう生きるか』はもうご覧になりましたか?
私はネタバレをどうしても回避したかったので上映開始の数日後で観に行ったのですが、非常に見応えのある面白い作品でした。
このように新作ジブリ映画が話題となっている今日この頃ですが、今回は『君たちはどう生きるか』の公開に合わせて、往年のジブリの名作の魅力を改めて振り返りたいと思います。
今回ご紹介するのは、同名の映画の原作である、漫画『風の谷のナウシカ』です。
「ジブリが好き!」という方の中でも、『風の谷のナウシカ』の原作までちゃんと履修している人は案外少ないのではないでしょうか?
確かに、映画『風の谷のナウシカ』で描かれているのは原作漫画のほんの一部にすぎず、漫画のお話は非常に長くて複雑です。読む際は気合を入れて取り組む必要があり、敬遠されがちです。
今回はそんな中堅ジブリファンの方々に向けて、重大なネタバレは避けつつ漫画『風の谷のナウシカ』の雰囲気を知っていただくために、巻ごとのオススメシーンをご紹介していきたいと思います!
作品について
『風の谷のナウシカ』の単行本を手に取ってみると、普通の漫画と比べて大きくて薄く、まるで雑誌のようなサイズ感であることがお分かりいただけると思います。
それもそのはず、『風の谷のナウシカ』はアニメ雑誌『アニメージュ』にて1982年2月号より連載を開始しました。
1984年に公開された映画『風の谷のナウシカ』の制作のためにたびたび休載期間を挟みながらも、1994年3月号にて完結しました。そして、第23回日本漫画家協会賞、第26回星雲賞を受賞されました。
前述の通り、映画版では原作漫画の冒頭部分のみが描かれているのですが、2019年に公開された歌舞伎版の『風の谷のナウシカ』では全編が描かれました。
私はこちらの公演を実際に観に行ったのですが、とても長い作品で1日がかりで観ました……座っているだけでかなり体力を消耗した覚えがありますが、同時に製作陣の「生半可な歌舞伎にしたくない」という強いジブリ愛が伝わってきたのも覚えています。
宮﨑駿監督は本当に絵が上手い……
至極当然のようなことを見出しにしてしまいましたが、『風の谷のナウシカ』を読めばおのずとこの言葉が口をついて出るはずです。
多くの人が制作に携わるアニメーションに対して、漫画『風の谷のナウシカ』は全編通して若かりし頃の宮﨑駿監督による手描きです。
つまり、すべての人物や背景の筆致の一つ一つが宮﨑駿監督によって生み出されたものなのです。
ジブリの映画作品の方に先に慣れ親しんでいると、漫画『風の谷のナウシカ』に対して「こんなお宝のような作品を読んでしまってもいいの?」という気分になります。
また、『風の谷のナウシカ』の連載が開始したのは40年以上前ですが、技術が発達して作業効率が上がった現代の漫画を比べても驚異的な描き込み量と画力であると感じていただけるはずです。
宮﨑駿監督の表現力を堪能できるのが、漫画『風の谷のナウシカ』なのです。
第1巻の魅力「ナウシカに襲いかかる蟲使いの手先!」
それではここから、各巻における個人的なお気に入りシーンをご紹介していきたいと思います。
第1巻で私が好きなシーンは、ナウシカが「蟲使い」という役職の人たちから取り調べを受けるシーンです。
「蟲使い」の仕事は、特別に飼い慣らされた蟲の嗅覚を使って探し物をしたり腐海の調査を行ったりすることなのです。この「蟲使いが使う蟲」の見た目が、腐海にいる大きくて強い蟲たちとはまるで異なり、中型犬くらいの大きさで全ての器官が退化したナメクジのような見た目なんですね。
蟲使いたちはトルメキアの王女クシャナから命じられ、ナウシカがとあるものを隠し持っていないか探るべく、ナウシカに向かって蟲を放ちます。
想像してみてください。もし中型犬サイズのナメクジ(複数匹)が体によじ登ってきたら……並大抵の人間だったら発狂してしまうと思います。
ナウシカにとって、そのとあるものは相手に渡したくない大切なものだったので、蟲たちを毅然とした態度で迎えます。しかし、さすがのナウシカでも不快感で顔が青ざめてしまいます。
ナウシカの強靭な精神が伺えるワンシーンだと思います。
第2巻の魅力「クシャナとミトじいの緊迫したやり取り!」
第2巻でも、クシャナは前述のとあるものを引き続き探しています。
そんな中ナウシカはクシャナたちの元を離れ、ナウシカの部下であるミトじいらがクシャナの元に残ります。
ナウシカを探しに行きたいミトじい。クシャナはそんなミトじいの立場を利用して、「ナウシカがとあるものを隠し持っているのかどうか吐けば、探しに行っても良い」と脅します。
この時のクシャナの迫力はなかなかのものです。
ミトじいも一瞬怯むのですが、その後のミトじいの返答がおすすめポイントです。
年の功とでも言うべきでしょうか、クシャナを圧倒するミトじいの話術に注目です。
第3巻の魅力「土鬼(ドルク)が乗る毛長牛たちVSナウシカ!」
第3巻では、ナウシカはクシャナの連合に参加し、映画には登場していない第2勢力である「土鬼(ドルク)」との戦いに臨みます。
クシャナが育てた第3連隊は、スピード勝負が得意な騎馬部隊。土鬼は毛長牛というトナカイのような生き物に乗って第3連隊を追いかけます。
第3連隊から多くの死傷者が出ることが予想される戦略でしたが、少しでも死傷者を減らすためにナウシカが第3連隊から飛び出します。
凄まじいスピードで迫る毛長牛の大群にナウシカが放ったのは、たった一つの鏑玉(殺傷能力は低く、代わりに大きな音が出る銃弾)でした。
例え戦場においても少しでも犠牲を減らしたいナウシカの気高い精神が表れているこのシーンはとてもお気に入りです。
鏑玉がどのような効果を発揮するのか、ぜひ見てみてください。
第4巻の魅力「変異体をお返しするナウシカ!」
第4巻では、土鬼の飛行機が巨大な蟲に追いかけられ、絶体絶命のピンチに陥っていました。
ナウシカは例え対立中の敵であろうと、命を見捨てることはありません。
なぜその飛行機だけが蟲に追いかけられるのか探ってみると、機内にとある蟲の「変異体」が載せられていました。(なぜ変異したのか、という点はお話の中で重要になるので、敢えて伏せさせていただきます。)
地上を走り飛行機に向かって触手をのばす巨大な蟲は、この変異体と融合しようとしていたのです。
ナウシカは、変異体を手放したくない土鬼たちを説得し、変異体を巨大な蟲に投げ入れ、スンデのところで飛行機を墜落の危機から救います。
私利私欲のために自ら死を誘き寄せる人間を救うナウシカの姿は、ジブリ映画『もののけ姫』でアシタカとサンがシシ神に首を返すシーンを彷彿とさせます。
ジブリ作品をいくつか観ていると、このような「似たシーン」に出くわすことが時々あるように感じます。
宮﨑駿監督の中で、この「モノを人間の手からあるべき場所に返す」という行為が重要なのだろうか……と考察が広がったシーンでした。
『風の谷のナウシカ』オススメです!
以上、『風の谷のナウシカ』の漫画ならではの魅力をご紹介してきました。
実は、『風の谷のナウシカ』の漫画は今回取り上げた4巻のあとにも続きがあり、全7巻で完結します。
後半3巻は、ナウシカたちを取り巻く世界の真実に切り込んだ内容になるので、敢えて紹介を省略させていただきました。
ジブリが好きな方には、ぜひ『風の谷のナウシカ』の本当の結末を見届けていただきたいです。
最終巻まで読むと、映画『風の谷のナウシカ』を見る目が変わると思います。自身の心境の変化も面白いので、もしこの記事がきっかけとなって漫画に興味を持ってくださった方がいらっしゃったら、ぜひ漫画を読む前か後に映画も観てみてください。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました!
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