冒頭から私事で恐縮ですが、私は女子校出身で、かなり長い期間を女子だけの空間で過ごしてきました。
そのため、女子校あるある漫画に興味を持って手に取ることがよくあります。女子校ならではの風景が誇張されコミカルに描かれた漫画を読み、「この点は私の母校と同じだ」「この点は少し違うな」と、自分の学生時代と比較しながら楽しんでいました。
そんなある日、書店で『女の園の星』と出会い、女子校モノということだったので即座に購入しました。しかも作者は、私がかねてより好きだった和山やま先生ではありませんか。
少し読み進めてみると、「これは他の女子校モノとは何かが違う」ということに気づきました。
女子校あるあるが決して強調されておらず、むしろ生徒たちの会話が淡々と描かれているだけなのにも関わらず、激しく共感し爆笑してしまったのです。
細々とした校則や学校の雰囲気は確かに私が過ごした母校とは異なるのですが、女子生徒たちの言葉選びや言動があまりにリアルだったからでしょう。
これほど女子校の生態を美化もせず貶しもせず、忠実に描き出した作品は他にないかもしれません。
女子校出身者の方には、ぜひ一度読んでいただきたいです。
今回は、そんな『女の園の星』の魅力についてご紹介していきたいと思います!
作者・和山やま先生と『女の園の星』について
和山やま先生は、2019年に発売された『夢中さ、きみに。』で彗星の如く現れ、一躍大人気になった方です。男子高校生の日常が描かれた、こちらの『夢中さ、きみに。』で、和山先生は2020年に第24回手塚治虫短編賞を受賞されました。
淡々と進むお話の中に散りばめられた、思わずクスッと笑ってしまうような面白さが持ち味の作家さんです。
また、絵柄もとても素敵で、シンプルに洗練されているのですが丁寧に描き込みがなされています。
和山先生は、自身最も影響を受けた漫画家として『帝一の國』や『ライチ☆光クラブ』の古屋兎丸先生、絵の影響を受けた漫画家として『富江』の伊藤潤二先生や『柔道部物語』の小林まこと先生のお名前を挙げていらっしゃいます。これらの先生方の作品が元々好きな方は、特に和山先生の作品にハマるかもしれません。
また、2020年に発売された『カラオケ行こ!』は、綾野剛さん主演で2023年に映画化することが決定しています。
今回ご紹介する『女の園の星』は、祥伝社の『FEEL YOUNG』で2020年2月号から連載されており、第3巻までの単行本が発売されています。(2023年4月現在)
現在発売中の第3巻の限定版にはアニメDVDが同梱されており、星野源さんと宮野真守さんがキャストを務めていらっしゃいます。
キャラクター紹介
それでは、『女の園の星』に登場する魅力的なキャラクターたちをご紹介したいと思います。
ローテンション国語教師・星先生
本作の主人公であり、名前がタイトルにもなっている、星先生です。アニメでは星野源さんが声を担当されています。
現在勤めている女子校に来る前は小学校の先生をしていました。その頃に苦手な大声を出していたことで、少しハスキーな声になってしまったという設定のようです。
いつもメガネに白のスタンドカラーシャツ姿で、誰に対しても丁寧な態度を崩しません。しかし、そんな星先生に物怖じしない女子生徒たちによく振り回されてしまいます。
面倒ごとや、陽キャっぽい小林先生に絡まれることを面倒くさく感じているのですが、心の中での(時々口にも出す)ツッコミにはなかなかの切れ味があります。
周りの先生や生徒たちからは、プライベートが想像できない先生だと思われています。
隣の席の数学教師・小林先生
職員室で星先生の隣の席に座っている、数学科の小林先生です。アニメでは宮野真守さんが声を担当されています。
いつもポロシャツを着ており、生徒たちに陰で「ポロシャツアンバサダー」というあだ名をつけられています。
星先生とは対照的な性格で、表情が豊かでノリも良く、星先生には時々うるさがられています。
一方で、保護者とのやりとりに苦慮したり、私生活では独身主義だったりと、一見人間好きのようですが意外な面も持ち合わせています。
2年4組のクラスメイトたち
星先生が担任を務めている2年4組は、実に個性派揃いのクラスです。
漫画家志望ですが思うように人気が出ず悩んでいる松岡さん、星先生の観察が趣味の鳥井さん、ノリで生きている古森さん、クールなショートカットが似合う若尾さん……。
私の推しは、ロングのウェーブヘアが似合う古森さんです。古森さんみたいな人がクラスにいたら楽しかっただろうなと思いながら見ています。
古森さんが活躍するおすすめの話は、「12時間目(単行本3巻収録)」の保健室のお話です。
他人と一緒にご飯を食べることが苦手な生徒が、仲の良いフォロワーさんとオフ会をするために苦手を克服しようとするお話なのですが、古森さんの明るくてマイペースな性格がキラリと光る話しです。
また、女子校に通っていた私の経験をもとに2年4組のクラスメイトたちを見ると、若尾さんのキャラクター設定が秀逸だなと思います。
若尾さんは短髪で吊り目の三白眼で、表情に乏しいクールなキャラクターなのですが、バレーボール部のキャプテンで校内のファンが多いという設定です。
女子校ってなぜか本当に、短髪の運動部の女子が後輩からモテるんですよね……バレンタインにチョコレートをもらったり、靴箱に手紙が入っていたり……。和山先生が学生だった時に、周りに似た子が学年にいたのかな? と勘繰ってしまうくらい解像度の高いキャラクターです。
ちなみに若尾さんはファンたちから「若様」というあだ名で呼ばれているのですが、それも良いですよね。
おすすめのお話①「2時間目(単行本1巻収録)」
『女の園の星』では、星先生と生徒たちの学校での日常が、基本的に1話完結で描かれています。
私がおすすめしたい1つ目のお話は、単行本1巻に収録されている、犬のお話です。
<あらすじ>
ある日星先生が授業をしていると、生徒たちが口々に「犬だ」と言って、ベランダの方に行ってしまいました。星先生も何事かと思いベランダの方を見てみると、なんと空中から犬が吊り下がっているではありませんか。
程なくして上階の3年生のクラスの生徒が星先生たちに声をかけ、犬を迎えにやってきました。
曰く、そのクラスの担任の先生が、親戚が飼っているセツコという犬を一時的に預かることになったのですが、娘がアレルギーのため家に置いて置けないので学校で面倒を見ることになったとのことでした。3年生たちもこれには大賛成で、セツコに「副担」という名前を新たにつけて可愛がっていたのでした。
しかし、3年生が受験前の勉強合宿に行く間、セツコを置いておく場所がありません。そこで、星先生が担任をしている2年4組で、3日間セツコのお世話をすることになりました。2年4組の生徒たちは大喜び。セツコに「タピオカ」というさらに新しい名前をつけて、みんなで可愛がっていました。
そんな中、セツコ改め副担改めタピオカに、とある珍事件が発生するのですが……
女子校出身の私からすると、セツコという立派な名前があるにも関わらず自分たちの名前をつけてしまうところが、いかにも女子校っぽいノリだなと思います。
また、このあと発生する珍事件も、言ってしまえばただただアホなのですが、自分も自分の周りの人たちも学生時代は小学生レベルのアホをやらかしていたよなぁ……などと感傷に浸ってしまいました。
また、3年生のクラスではセツコは「副担」、つまり副担任の先生の代わりとしてみんなにかわいがられ、実の副担任は煙たがれていました。しかし、先生や生徒が家に帰る夜間にセツコの世話をしているのは、本物の副担任の先生である中村先生だったのです。
そんなやや暗めの性格の中村先生と、元気溌剌なセツコのやりとりも見どころですよ。
おすすめのお話②「4時間目(単行本1巻収録)」
私がおすすめしたいもう1つのお話は、同じく単行本1巻に収録されている、あだ名のお話です。
<あらすじ>
ある日小林先生が教室に入ろうとした時、中の生徒たちが自分のことを「ポロシャツアンバサダー」と読んでいるのがつい聞こえてしまいました。
職員室に帰って星先生にそのことを話すと、星先生は以前「無印良品」と呼ばれていたことがあるそう。自分のあだ名よりも良い気がして、小林先生は羨ましがります。
そんなたわいもない話をした後の夜、運良く2人とも仕事が早く終わったため、小林先生は星先生を飲みに誘うことに成功します。普段は星先生に断られることが多いので、お誘いに成功した小林先生は嬉しげな様子。
実は小林先生は、酔っ払った星先生を見るのが大好きなのでした。星先生は、普段の無表情が演技であるかのように、さまざまな表情を見せます。そんな中、小林先生と酔っ払った星先生が2人で歩いているところを生徒に見られてしまい……!?
私が女子校に通っていた頃、生徒たちにとって先生とは近いようで遠い存在でした。偶然先生たちのオフショットやプライベートな様子が垣間見えたときは、とてもワクワクドキドキしたのを覚えています。そして、自分が得た情報を光の速さで噂として流すまでがセットなんですよね……。
星先生と小林先生が居酒屋で談笑している様子を見ると、学生時代には見ることの出来なかった先生たちの一面を覗いているような気分になり、当時のワクワクを思い出しました。
偶然小林先生と星先生に遭遇してしまった生徒のリアクションにも、「わかるわかる!」と頷いてしまいました。
その時の生徒は、クラスメイトに即座にこのようなメッセージを送ります。
「星先生発見」
「小林先生とデート」
この、わざと煽動するような言い方がめちゃくちゃ分かる……。学生にとっては、このような場面に遭遇することは大事件なんですよね。
以上のような理由から、このあだ名のお話は、全話の中でも特におすすめしたい1話です。
『女の園の星』おすすめです!
新進気鋭の天才・和山やま先生が描く、他の漫画にはない面白さがギュッと詰まった『女の園の星』。
女子校出身者の私が太鼓判を押すリアリティを以て、女子校の学生と先生の日常や珍事件が淡々と、しかしながら面白おかしく描かれています。
主人公である星先生や小林先生の、ビジネスの範疇を超えることのない(けれどちょっぴり楽しそうな)関係に、生徒たち同様目が離せなくなること間違いなしです。
女子校に少しでも通った経験のある方は、ぜひ一度読んでみられてはいかがでしょうか?
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